岩国市民は爆薬のヒューズを切断するか?
JR東海会長の葛西敬之という人が「地球を読む」という6月18日(日曜日)の読売新聞1面を飾るコラムに書いています。(1面から2面にまたがる長文のコラムなので、全文を読みたい方は図書館でどうぞ。)
題して、〜「民意」問う歴史の教訓(副題:岩国市の住民投票)〜
彼は岩国市の住民投票と市長選挙の経緯を見て次のような歴史的事実を連想したそうです。
第2次世界大戦直前の英・仏とドイツの関係の歴史である。(中略)
アンドル河畔のある村では、フランス軍がドイツ軍の進撃を遅らせるために橋梁に仕掛けておいた爆薬のヒューズを、村人が切断してしまった。自分たちの家や店舗を戦闘により壊されたくなかったのだ。またポアティエの市長はドイツ軍に降伏すべく、車に白旗を掲げてフランス軍陣地の前を走り去った。そして市民たちは、フランス兵が構築したバリケードを破壊すると言って兵たちを威嚇した。
一部の人たちの利益を守ろうとする「民意」が、時に全体の利益を著しく損ない得るということをこの例は如実に示しているように思われる。(中略)
「民意」は尊重されなければならない。しかし一部の利益が過剰に主張されたとき、それはブーメランのように自分に戻ってきて、自らを傷つける凶器となる。
何と悪意のあるすり替えでしょうか。
全文を通して、岩国市民への思いやりは一切ありません。
彼は何度も、「一部の人たちの利益」と言っていますが、騒音や墜落の危険から逃れたいというのが、「一部の人たちの利益」すなわちエゴというのでしょうか?
御自分も一族郎党も米軍基地のすぐ近くに住み、そこに会社もあり、毎日の轟音や墜落の恐怖におびえながら、仕事や日々の暮らしをしているけど、自分は全体の利益のために我慢していると言うのならまだわかります。
でもそうではないはずです。自分や家族はとても環境のいいところに住み、会社では快適な会長室でお過ごしのはずです。
そのうえで、騒音や墜落の恐怖から逃れて最低限の生活の質を守りたい(それもこれ以上重荷が増えるのがいやだという)だけの岩国市民の悲鳴を、どこかで仕入れたフランス人の利敵行為の逸話にすり替えて得意げに、非難しているのです。
岩国市民はもし戦争が始まったら、みな敵の味方をするというのでしょうか?
太平洋戦争では国家の思惑はともかくとして、多くの若者が純粋に祖国や愛する人々を米国の侵攻から命をかけて守ろうとしたが果たせませんでした。結果として現在わがもの顔でこの国を操っている米国の、そのお先棒を担いで、まるで自分がアメリカ政府の要人のように世界戦略を得意げに語る彼の方こそ、散っていった当時の若者からしたら利敵行為の売国奴でしょう。
心ならずも自分の地元に米軍基地がある、そのために騒音に苦しめられ、墜落の恐怖におののいて、反対することのどこが悪いというのでしょうか!
そして彼の言う「全体の利益」とは、きっと彼が主要なメンバーの一人と思っているこの国の支配層の利益のことでしょう。
葛西さんとやら、JRの会長さんと言うことなので、あなたはきっととても偉い人なのでしょう。私は知りませんが、きっと政府の偉い人達の会議か何かのメンバーにも選ばれているのでしょう。
でも、いくら大企業の会長に上り詰めて、大新聞の日曜1面のコラムニストに選ばれるようになったからと言って、勘違いしてはいけません。あなたが、唯一無二の特別な存在と思っているとしたら、大間違いです。
代わりはいくらでもいます。(いつも思うのですが、本当に代わりはいくらでもいるのです。)
不謹慎なことを書きますが、もしこの瞬間にあなたが不幸にもこの世を去ったとしても、会社も世の中も一瞬悲しみの表情をしてみせたあと、すぐに何事もなかったようにまた動き続けるでしょう。
なにせ代わりは山ほどいるのですから。そしてあなたのことなどすぐに忘れ去られるでしょう。
しかし、米軍基地がある限りは周辺住民の苦しみは未来永劫に続くのです。
あまり偉くなりすぎて、普通の人達が虫けらのように見えるのかも知れませんが、まず御自分が轟音の下でお暮らしになってみて、それから大新聞にでも何にでもご意見をのたまったら如何ですか。
JR東海会長、葛西敬之さんに岡林信康の「がいこつの唄」をお送りします。
がいこつがケラケラ笑ってこう言った
どうせてめえらみんなくたばって
オイラみたいになっちまうのによだれがえらいもあるもんけ
どうしてそんなに
でっかいつらをやりたがるのか
(以下略)
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コメント
あまりにもの見識のなさです。これが一面記事ですって!!
米軍が来るのを阻止するということは、戦争を仕掛けられる理由の一つをなくすことであって、フランスのたった一つの小さな村がドイツ軍の来るのを阻止したことに匹敵する。歴史的快挙であった、と書くのなら納得します。
投稿: KUMA0504 | 2006年6月22日 (木) 09時01分
KUMAさん、コメント有り難うございます。
読売新聞の毎週日曜のこのコラムは、あの引きつった笑顔に彼の人間性のすべてが表出している岡崎久彦がよく威勢のいいことを書いているので読まないのですが、今回は題名に気を引かれて読んでしまい、怒りが治まらずブログに載せました。
投稿: panta | 2006年6月22日 (木) 15時15分
この葛西というのは最低の勘違い男である。
国鉄を民営化したと得意になって威張り散らしているが、民営化して、一体どこが良くなったというのか。乗客はギュウギュウ詰めの車内で立ちっぱなし、本も新聞も読めず、挙句の果ては痴漢で逮捕と、碌なことがない。
しかも、駅員は無責任でバカばっかり。
この勘違い男は、文才もないのにあちこちに寄稿して得意になっている。 私の住んでいる神奈川の新聞にも時々、説教めいた駄文が載っているが、良心を失った人間の説教ほど空しいものはない。岡崎久彦の説教も同様。
投稿: デカルト | 2006年6月23日 (金) 01時13分
デカルトさん、コメント有り難うございます。
説教じみたことを言う人には気をつけた方がよいということでしょうね。
投稿: panta | 2006年6月23日 (金) 08時22分
pantaさん、お久しぶりです。
とんでもない論法の記事が新聞に載る、それを許す新聞、それを読んで感じない人がいる、そんな流れの中で徐々に「状況化」してゆく・・・そしてもう少し狂った記事が載る・・・「おかしい」と言い続けるしかないですね。
国会閉幕直前に自民党は「共謀罪、民主党案をはきだし」て、独自修正案を国会の委員会審議なしで議事録記載(だったか?)で提出しました。継続審議で秋に決めるつもりですよ・・・心してかからないといけません。
ではでは。
投稿: こば☆ふみ | 2006年6月26日 (月) 00時11分
こば☆ふみさん、コメントどうもすみません。
本当に「おかしい」ですし、「おかしい」と言い続けなければなりませんね。
ブログを始めて、そう感じている人たちが多くいることを知り勇気づけられます。
投稿: panta | 2006年6月26日 (月) 07時14分