悪政、苛政
今日、診察にこられた老婦人からいつもより多めに薬を出して下さいと言われました。理由を尋ねると、保険料が来月から上がってしまうので少しでも節約したいからとのことでした。「自分は一人者で裕福でもなく、最近収入が増えたわけでもないのに何で保険料が急に上がるのか納得がいかない。離れて暮らしている子どもに相談して一緒に役所に掛け合ってもらおうと思っている。」と、いつもになく興奮気味で話し続け、しまいには少子化対策優先政策への批判にまで彼女の舌鋒は及んだほどでした。
しかしこの方が立腹するのも当然なのです。あなたが慢性の病気で定期的に病院に通っているとします。病院や調剤薬局での支払いが来月から今の3倍になりますよという通知が突然届いたとしたら、あなたは納得できますか? 3倍になると聞いてそんな馬鹿なと思われるかもしれませんが嘘ではないのです。(正確には9月から2倍、10月から3倍ですが…)
10月からの老人(70歳以上の人)保険料の改定で、「一定以上所得者」(現役並みの所得がある人です。具体的には年収ベースで484万円以上の老人)の窓口負担率が現行の2割(一般の老人は1割負担)から3割に引き上げられることは御存知の方も多いかもしれません。余裕のある人に応分の負担をしてもらうのはしょうがないじゃないかという意見の方もおられるでしょう。ところがここにもうひとつ仕掛けがしてあるのです。税制改正によって70歳以上の「一定以上所得者」の判定基準が年収383万円以上に引き下げられたのです。
先の老婦人はこの年収ベースで383万円から484万円の間であったため、今までは1割負担で済み、御本人も自分は”金持ち老人”には入ってないと認識されていたでしょうし、10月からの3割負担への移行も他人事として聞き流していたはずです。自分の収入が増えたわけでも何でもないわけですから、彼女にとってはまさに青天の霹靂で絶対に納得がいかないでしょう。(おまけに介護保険料の負担増という追い打ちもかけられています。)
医療にかかる費用の多寡に貧富の差は関係ないわけですから、年収で窓口負担率を分けるのは奇妙な話です。ましてや484万円とか383万円などの中途半端な境界線で、(簡単に言ってしまえば)”金持ち老人”と”一般老人”を分けて、倍の(10月からは3倍の)支払いを要求するとは何と無茶苦茶な話でしょうか。悪政、苛政とはまさにこのことです。年収に応じて応分の負担をしてもらうのなら、一定のもしくは累進的な掛け率をもうけないと不公平です。何より老人保険以外の一般の国保や社保においても、世にあまねくおらせられる大金持ちや小金持ちのセレブ様たちにも応分の負担をしてもらわねば納得がいきません。先の老婦人がいみじくも言われました。「文句の言えない自分たちが狙い撃ちにされている」と。
開業して20年近くになりますが、医療行政についてこんなにも腹が立ったことはありません。小泉”改革”は着実に人々の心の奥深くマグマを蓄積させつつあるようです。次の方はそれを共謀罪に代表される警察力や、海外派兵などの軍事力でねじ伏せようと考えているのかもしれません。
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