シリーズ医療も命も削られる(2)
保険診療と診療報酬
シリーズ医療も命も削られるの2回目です。
1回目の「なぜ起こった? 医師不足」の前編、後編では、最近騒がれ始めた医師不足の根本原因として医療にお金をかけない国の姿勢(低医療費政策)をあげました。その最大の手段が「診療報酬抑制」です。
診療報酬とは公的医療保険(皆さんが病院の窓口に差し出す保険証でまかなわれている制度です)が適用される医療の範囲とその値段を定めたもので、いわば「医療サービスの料金表」です。一般的な病気の治療であればほぼすべてが事細かく記入されています。よく”この治療には保険がきく”などという言い方をしますが、それはその治療がこの料金一覧表の中に含まれていると言うことです。この料金一覧表に含まれている範囲の医療行為を保険診療といいます。よく医師の処分で”保険医停止”や”保険医取り消し”などを耳にすると思いますが、その処分を受けた医師に診てもらっても保険が利かず全額患者さんの自己負担になるということです。
診療報酬で定められた料金が医療機関の収入となるわけですが、ここからが少し複雑です。よく医療保険では”何割負担”などという言葉が使われますが、これはその料金総額の何割を患者さんが医療機関の窓口で実際に支払う(窓口負担)かと言うことです。残りの額は1ヶ月単位でまとめられ、2ヶ月遅れで医療機関の銀行口座に公的医療保険機関(皆さんが医療保険の保険料を毎月支払っているその支払先です、と一口に言ってもとても複雑ですが…)から振り込まれます。窓口負担0割ならすべて公的医療保険でまかなわれるということで心置きなく医療を受けられるわけです。逆にこの割合が高いほど皆さんにとって医療保険は頼りにならなくなるわけですが、近年窓口負担割合は徐々に引き上げられ現状はほぼすべての人が3割負担、高齢者も来年からは2割負担が決まっています。
診療報酬抑制(削減)ということはこの医療サービスの料金表のメニューを減らし料金を下げることです。この診療報酬抑制(削減)によって何がもたらされるかこの小冊子では以下の3点をあげています。
- 診療報酬が削減されるということは、その前と全く同じ医療行為をしていても無条件に医療機関の収入が減らされるということです。これが経営の悪化につながれば設備や機器の買い控えや人員の削減を招き、医療の質や安全性に影響を及ぼして結局は患者さんにしわ寄せが来てしまいます。
- 医療サービスのメニューが減らされたために、従来行っていた医療が保険で提供できなくなり、実際このことで深刻な事態が起こっています。
- 保険が利かなくなっても患者さんにとって必要な医療であれば、保険外でも受けざるを得ないわけで、そういう自費の医療が増えれば患者負担は大幅に増加します。
医療サービスの料金が下がればそれだけ患者さんの負担が減っていいじゃないかとも思われますが、窓口負担割合が増加したときの不満(医療機関の収入が増えると勘違いされる方もいます)に比して、診療報酬が引き下げられた恩恵を口にする患者さんの声はほとんど耳にしません。診療報酬の改定は毎回数パーセントですので、その3割以下を負担する一人一人の患者さんにとっては目に見えた減額にはなっていないのかも知れません。
小泉内閣が行った2006年4月の診療報酬改定では、3.16%と史上最大の引き下げとなりました。国民医療費30兆円の3%ですから約1兆円です。よく”無駄な医療費”という言葉が使われますが、健康食品の市場規模が2003年から毎年1兆円を超えていることを考えると、本当に無駄なのは何かと複雑な思いに駆られます。
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» コムスン問題の黒幕 [ふじ香の思うこと]
font size=3私は、『「コムスン」が、悪いで片付けられる問題でしょうか?』http://blogs.yahoo.co.jp/noriwara_fuzika/20557416.html で、「コムスン」側に甘い記事を書いたが、今日の毎日新聞朝刊「発信箱」も私と同じ視点で書かれていた。
たいして長い記事ではないので、とりあえず全文紹介したい。/font
http://www.mainichi-msn.co.jp/today/news/2..... [続きを読む]
受信: 2007年6月15日 (金) 19時00分
» 社会保険庁解体法案を白紙撤回し,超党派の調査機関を設置して国勢調査並の全戸緊急総点検を実施せよ [エクソダス2005《脱米救国》国民運動]
社保庁が11日に開設したフリーダイヤル「ねんきんあんしんダイヤル」には3日間で100万件を超える問い合わせが殺到し,実際につながったのはわずか4.5%という状態が続いている.ロウゴ・ナヤミ・ゼロ(0120-657830)?まさか!アルバイトをかき集めただけの電話口で,どんな特訓をしたのか知らないが口先だけで何を解決することができるというのか?こんな泣いている子どもに飴玉をしゃぶらせるようなやり方で1億2千万国民を納得させることなどできるはずがない.ここまで来た以上,社会保険庁解体法案を白紙撤回し,速... [続きを読む]
受信: 2007年6月16日 (土) 01時45分
» 戦前レジームの連続性 [とむ丸の夢]
7月22日と考えられてきた参院選投票日が、ここにきて8月12日だ、とか8月下旬だとか、いろいろささやかれ始めましたね。 7月22日で決定ではなかったわけですか?! と、私などは目を白黒させるばかりです。 ゲリマ... [続きを読む]
受信: 2007年6月16日 (土) 10時31分
» 年金記録システムダウン 役立たない“旧式コンピューター” [ふじ香の思うこと]
社保庁は、本当に、ひどい役所ですね。
まずは、↓をお読みくださいませ。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070616-00000012-gen-ent
{{{:
年金記録システムダウン 役立たない“旧式コンピューター”
6月16日10時1分配信 日刊ゲンダイ
日曜返上で年金相談に殺到した人々を逆上させた、10日発生の社会保険事務所のシステム障害。社保庁は全国23県、計130カ所で起きたトラブルの原因を「ホストコンピューター..... [続きを読む]
受信: 2007年6月17日 (日) 00時13分
» 9条改憲を許さない6・15共同行動: 老人パワー炸裂,道幅一杯に広がった1200名の銀座デモを敢行! [エクソダス2005《脱米救国》国民運動]
昨日(6月15日)日比谷野外音楽堂で開催された樺美智子さん虐殺27周年を記念する「9条改憲を許さない6・15共同行動」に参加してきた.私は出遅れてしまったので,会場に到着した時にはすでに7時を回っていたが,広い野音の1/3の席は全国から詰め掛けたロートル活動家で埋め尽くされていた.夕食を摂らずに出たので公園内で売店を探したが見つからないので止むを得ず食事を摂るのをあきらめて会場に入ると,思いがけず中で売店が開いていたのでこれ幸いと缶ちゅーハイとクッキーを一箱求めて空いている舞台向かって右手の方に座っ... [続きを読む]
受信: 2007年6月17日 (日) 00時49分
» 街宣活動開始! [野生化の時代]
出来上がった宣伝カーの”流星号”に乗り、都内全域での街宣活動開始! 政府の悪行、市中引き回し街宣! 街宣スケジュルカレンダーをブログに設置しますので、 チラシまきや、一緒にマイクで与党の悪政を訴えてくれる方、そして運転を交代してくれる方、応援よろしくです!..... [続きを読む]
受信: 2007年6月17日 (日) 09時56分
» 統計数字で見る今の日本(寺島実郎講演から) [関係性]
今月初めに「みずほFORUM-M定例講演会」が東京のイイノホールで開かれた。
講師は寺島実郎(三井物産戦略研究所所長、日本総合研究所会長)である。「2007年の世界潮流と日本」という演目で、日本の資本主義がアメリカやイギリスを追ってグローバル化とマネーゲーム化に突き進んでいることを述べた。
なかなか普段から経済の大枠での統計数字を見ることに慣れていないが、寺島氏の提示した数字を理解することから始めよう。経営者のみなさん、労働者のみなさん、主婦のみなさん、この統計数字にしばらく付き合ってください... [続きを読む]
受信: 2007年6月18日 (月) 14時28分
» 「新党大地」多原かおりさん [喜八ログ]
「新党大地」公認候補の多原香里《たはらかおり》さんは大変に興味深い経歴の持ち主です。鈴木宗男氏の「新党大地」副代表に就任し、現在は参院選での議席獲得を目指して奮戦中です。 [続きを読む]
受信: 2007年6月18日 (月) 21時04分
» 今更だけど情報公開とかどうでしょうか [はじめの一歩]
年金問題がまだ話題のようで,社保庁おかしい!天下りけしからん!と既定路線へ引っ張られているような気もするこの頃です.でも,自分の大切なお金を預けているのに,領収書さえ取っておかないと言う,この絶対の信頼.私もそうだから,批判と言うわけではありません.でも,こういう絶対の信頼が,日本の国と国民の間になぜ生まれたのか,不思議な気がします.数十年前には,敗戦に導いた日本政府に対して...何十年にも渡って,社保庁その他がしていることを監視することもなく,放置しておいたのだとしたら,彼らがほんの出来心で手を抜... [続きを読む]
受信: 2007年6月19日 (火) 00時57分
» 民営化神話をぶっ壊そう 井戸端政治論議はいかが [とむ丸の夢]
人気blogランキングへ 参院選まで頑張ろう、と思っています。 ご協力をお願いいたします。 ありがとうございます... [続きを読む]
受信: 2007年6月21日 (木) 12時35分
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