« 小ささ政府、大きな軍隊 | トップページ | みんなを騙すためだったん? »

2007年11月 1日 (木)

戦争の臭い

Beheiren

 小田実の本「中流の復興」を読んでいます。学生時代に読んだのは「世直しの倫理と論理」だったでしょうか。もう覚えていません。「殺される側の論理」などという言葉が蘇ってきました。この言葉今も少しも色あせていません。それどころかますます今の世界では強いメッセージを発しています。

 序章「被害者にも加害者にもならない未来へ」を、小田は”戦争の臭い”という表題で書き始めています。”戦争の臭い”とはすなわち死体の臭いです。当時中学生だった彼が焼け跡の片付けに動員され、がれきの中から引きずり出した腐った死体の臭いのことです。これは強烈な印象として残り彼は戦後食料がない時代にも配給されたあるものの缶詰がどうしても食べられなかったそうです。小田実があくまでも「殺される側」の視点を持ち続けてその後の平和運動を続けていったことのこれが原点だったのでしょう。

 この夏NHKで旧日本軍の南洋諸島やインドシナでの悲惨な戦いを既に齢80代になられている当時の兵士の方々の証言で綴る特集シリーズを放送していましたが、実際に戦地で戦った兵士達の悲惨さは想像を絶するものがあります。この世の地獄のような証言でした。彼らが今までなかなか重い口を開かなかった理由がよくわかります。彼らは「殺される側」でもありまた「殺す側(実際に手を下して殺すように命令される側)」でもありました。とくに「殺す側」としての行為は家族にさえ話さず墓場まで持って行こうと思っている方が多いのではないでしょうか。

 戦争とはそれに巻き込まれた一人一人の庶民にとっては、テレビや新聞のニュースなどではなく、ましてや歴史書や教科書上の出来事ではありません。自分自身や身近な人の死であり、あるいはまた自分自身が人殺しになることです。私たちにとって戦争とは死体の臭いそのものでしかありません。”正義の戦い”、”テロとの戦い”、”聖戦”、どんなに美辞麗句を並べようとつくりだしているのは死体の山です。

 小田実は言います、「軍人の思想、戦争の思想に巻き込まれてはいけない」と。テレビのニュースや政治番組で中東の戦争やそこに派遣されている自衛隊が論じられているのを視るとき、私たちはつい為政者や司令官になったつもりで思考しがちです。それは今、声高に叫ばれている”国際貢献”、”テロとの戦い”、”何物にも代え難い日米関係”などという言葉のまやかしにも通ずるところです。しかし視聴者の九分九厘は実際の戦争では「殺される側」や「殺す側」に否応なくされてしまうはずです。「殺すように命令する側」の論理、「死体の臭いの届かない所で命令を下している側」の思考に巻き込まれてはいけないということでしょう。

 久し振りの小田実は徹頭徹尾市民の目で世の中を見ていくことをあらためて思い起こさせてくれました。私は国家ではありません。ちっぽけな一人の市民です。だからこそ市民の目で世界を見つめ、市民の論理で戦争を考えていこうと思います。

|

« 小ささ政府、大きな軍隊 | トップページ | みんなを騙すためだったん? »

コメント

panta さん、ご無沙汰しています。
これはあくまで「一般論」でありますが・・・(笑)。
下らないコメントはどんどん削除したほうがいいと思いますよ~。
「彼ら」は最近はどこでも相手にされないので、panta さんのような善人のところに吹き寄せられる傾向があります。
下劣な人間に善意で対応しようと言うのには限界があると思います。

ところで「郵政民営化凍結トラックバック・キャンペーン」なるものをやっています。

http://tbp.jp/tbp_9088.html

過去記事・関連記事も大歓迎ですので、TBをいただければ幸いです。
今後ともよろしくお願います!

投稿: 喜八 | 2007年11月 3日 (土) 20時55分

はじめまして。

こちらの記事に、とても共感いたしましたので、つたない記事ですが、私のブログにて、ご紹介させていただきました。

どうぞ、宜しくお願い致します。

投稿: なるほど♪ママ | 2007年11月 4日 (日) 15時50分

喜八さん、こんばんは。
アドバイス有り難うございます。早速実践しました。

投稿: panta | 2007年11月 4日 (日) 20時24分

なるほど♪ママさん、こんばんは。こちらこそどうぞ宜しく御願いします。

ブログに取り上げていただいて感謝しています。共感していただいて心強く思っております。

投稿: panta | 2007年11月 4日 (日) 20時36分

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 戦争の臭い:

» 「殺しながら助ける」支援というものがあり得るのか(中村 哲さん) [とくらBlog]
 恥ずかしげもなく、よくこんなチラシがまけるものだと、A PLACE IN THE SUN のpochiさんが米軍再編による空母艦載機などの岩国基地移転に反対している岩国市の井原勝介市長へのリコール運動のチラシを紹介してくださっていて、いっしょに怒りの声をあげたいし、ファミリー メンタル クリニックさんの再編交付金 露骨だなあ にも反応したいのですが、27日の記事に追記したように、事務所の引越し等で、ブログを書いてる場合か!と怒られれそうなので、朝、書きかけにしていたものをそのままUPしておきます。... [続きを読む]

受信: 2007年11月 1日 (木) 20時39分

» 「バカの壁」より「アカの壁」 [BLOG BLUES]
負けてもうた。東大阪市長選である。下掲は、 選挙結果をつたえる、昨日の毎日新聞朝刊記事。選挙を通じて、 報道はこれが最初で最後でした。あのね、おっさん、わしゃカナワンよ。 保守分裂の間隙を縫い、千票の僅差で長尾候補が勝ったという 前回選挙のデータを持ち合わせてないので、当て推量で書くのだが。 保守分裂で、一方の候補が他方の3分の1以下とは、常識的にあり得ない。 共産党市長再選阻止の密約が、あったと考えるのが妥当だろう。 また、東大阪は、中小企業の町だそうな。保守支持の大企業... [続きを読む]

受信: 2007年11月 2日 (金) 11時57分

» 原発を考える(中) [関係性]
―地震と原発事故がもたらす 報道の二つの流れ(1)―  原発を考えるとき、ウラン採掘による鉱山労働者の被爆から原発稼動による地域への放射能汚染まで、様々な環境破壊を続けていることを考慮に入れる必要がある。  原発による被害者(自分とは遠い存在に思えるかもしれない)を見ずに、国家と企業にもそれなりの稼動論理があるとする見方を私は容認したくない。  私たちは広島と長崎の被爆体験を持っている。それも余りに悲惨な体験である。言うまでもなく、アメリカによるマンハッタン計画によって濃縮ウラ... [続きを読む]

受信: 2007年11月 2日 (金) 15時48分

» 大連立騒動の考察 [喜八ログ]
昨夜(2007.11.02)の「大連立騒動」。 これで福田康夫内閣総理大臣は完全に手詰まりの状態に追い込まれたことでしょう。そして最も衝撃を受けているのが…「公明党」。そして他の「青褪めた人々」ですが… 「民主党凌雲会:前原誠司氏のグループ」。 ... [続きを読む]

受信: 2007年11月 3日 (土) 20時51分

» 福田首相と小沢党首の「密室協議」〜民意は…?どこへ…?〜 [なるほど♪ママダイアリー]
小沢さんの行動に、やっぱり、ショックをうけてる、なるママです…。 私なんかより、いろんな事を、あらゆる方向から考えての、深〜い考えのもとの行動なのかもしれませんが…。それでも、密室協議も、ISAF参加も、自衛隊派遣恒久法も、なるママは賛成できかねる…。 ....... [続きを読む]

受信: 2007年11月 4日 (日) 15時47分

» 報道機関は、小沢代表の言葉を重く受け止めるべき [とくらBlog]
 小沢代表には、ぜひ、民主党の代表を続けていただきたい。  小沢さんの会見を見て、みなさんはどのように感じられたでしょうか?  私は今日の小沢さんの言葉を正確に報道してもらいたいと思います。午後4時からと言われた会見は、かなり遅れて始まりましたが、NHKでは、小沢さんの会見をすべて中継していました。民主党のHPでも見られるはずです。今後のテレビや新聞は、どの部分を切り取って伝えるのでしょうか?注目したいと思います。  今朝、NHKの討論番組で、菅さんと山岡さんが出演されて、小沢さんから... [続きを読む]

受信: 2007年11月 4日 (日) 19時02分

» 原発を考える(下) [関係性]
―地震と原発事故がもたらす報道の                   二つの流れ(2)―  前回は報道の二つの流れの一つを提示した。  “お前達のために危険な原発を推進しているのが分からないのか”と主張する原発推進者の責任転嫁を感じて示したものであった。  確かに、pfaelzerweinさんが言う「日米核協約を含めてのタブーや既成事実の容認は誰でもない有権者自身の意思であることを改めて強調しておきたい」(前回の記事へのコメント)を否定すること... [続きを読む]

受信: 2007年11月 9日 (金) 11時30分

» ビリョクだけどムリョクじゃない高校生たちの活動 [映画と出会う・世界が変わる]
国連で日本の被爆アニメと高校生のスピーチががどう受け入れられたのか、そして高校生がどのようなことを感じたのかを共有することは、今後の日本の平和運動にとって非常に重要であると思います。これは、高校生平和大使、そして一万人署名とひろがる高校生たちの活動のひ...... [続きを読む]

受信: 2007年11月12日 (月) 08時52分

» フランスの「新規雇用契約」法制が国際労働機関(ILO)に否定される。 [村野瀬玲奈の秘書課広報室]
日本の報道では今のところ目立つところには見かけないし、日本の労働法制(政府与党による残業手当ゼロ法や労働の極端な短期化、不安定化、非正規化へのねらい)にとっても大切な意義があると思うフランス発の記事がありま... [続きを読む]

受信: 2007年11月17日 (土) 13時42分

» 自分の問題としての環境問題(上) [関係性]
 前回の「原発を考える(下)」でお二人の方からコメントを頂いた。先ず、その文章をお読みください。  投稿者:愚樵 http://gushou.blog51.fc2.com/  「TBありがとうございます。  >“お前達のために危険な原発を推進しているのが分からないのか”と主張する原発推進者の責任転嫁  前エントリーでこれを『資本の論理』と仰っていましたが、これに賛同すると同時に少し違和感も感じていました。というのも消費者としての私たちの側も、まるで無責任とは思えないからです。  現在の日本では電力需... [続きを読む]

受信: 2007年11月19日 (月) 13時42分

« 小ささ政府、大きな軍隊 | トップページ | みんなを騙すためだったん? »