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2007年5月6日 - 2007年5月12日の2件の記事

2007年5月11日 (金)

神の手

Kaihoken

日本が世界に誇る国民皆保険制度は1961年(昭和36年)に整備完成されていますので、子供の頃しょっちゅう風邪を引いていた私は小学校入学前後からその恩恵を受けていることになります。私はこの国民皆保険制度のなかで育ち、医師となり、その後は保険医としてこの国民皆保険制度の下で20年近く診療にあたってきました。この間私自身も経済的、社会的理由で医療の恩恵に浴せなかったことは皆無ですし、診療を預かる立場からも経済的・社会的理由から病気の方の治療ができず悔しい思いをしたことはありませんでした。今まではそれが当たり前でした。

この間、診療報酬は改定のたびに常に引き下げられ、たとえ同じ人数の患者さんに同じ治療をしていたとしても病医院の収入は減り続けていくことになります。それでも毎日の診療に追われて問題意識にも乏しく、事ここに至るまで何の意思表示もできず、行動もとれずに来てしまったというのが正直なところです。それどころか”国の予算が足りないのだから私たち医者側の収入が減っても仕方がない、病気の人の役に立ちたいと思って医者になったのだから、家族がそこそこに暮らしていけるだけの収入があればまあいいか…”とさえ思っていました。

今でも私はそれで病気の方が、支払い能力の有無にかかわらず、いつでもどこでも診療が受けられる皆保険制度が維持できるのであれば、そして患者さん側の負担が少しでも減るのであれば、診療報酬の引き下げ自体は甘んじて受け入れる覚悟があります。しかるにどうでしょう、患者さんの窓口負担率(診療全体にかかった金額のうち、病院の窓口で患者さんが実際に支払う金額の率)は軽減されるどころか引き上げられる一方で据え置かれさえしていません。今や一般の方はすべてが3割負担、来年からは高齢者まで今までの倍額の2割負担になる始末です。

さらに、やはり来年から75歳以上の後期高齢者(と勝手に厚労省が名付けています)が強制的に加入させられる、民間保険と併用(50-80誰でも入れますなどと言ってさかんにテレビでCMが流されている外資系保険はそのための高齢者囲い込みが目的と聞いています)しなければとても満足な治療が受けられそうにもない保険制度が新たに始まります。混合診療の解禁といい「いつでも、どこでも、誰でもが安心して医療が受けられる」という日本の国民皆保険制度が音を立てて崩れようとしています。

Kateiigaku

ところで以前から民放の妙に不安感を煽るような構成の病気バラエティ番組が気になっていましたが、昨今はやたら”神の手”だとか”スーパードクター”などと銘打った番組が増えてきた気がします。こういう番組を見ていつも思うのですが、まるで世界にその人一人しかそういう治療ができないかの如く演出されていますが、果たしてそうでしょうか。もちろん私のような凡医とは較べるべくもないですが、この広い世界、否、狭い日本でさえ同様の腕をお持ちの”スーパードクター”は少なからずおられるはずです。またそうでなければ駄目なのです。医療は万人のための科学であり技術であって、秘伝や魔法ではありません。どんなに超絶の手技を身につけていてもそれが少数のものに独占された門外不出のものであっては何の役にも立ちません。

もちろんテレビで紹介されている”スーパードクター”もそのことは十分知っておられてその手技の普及や後進の育成に余念がないこととは思います。テレビがことさら”スーパー”だとか”神の手”だとか言って強調するのは、高額の患者負担が前提の、少数のハイクラス向けの医療の存在を許す新自由主義的な考えを植え付けようとしているのではないかと勘ぐってしまいます。テレビに絶望している私の疑心暗鬼に過ぎなければよいのですが…。

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2007年5月 8日 (火)

シリーズ医療も命も削られる(序)

Iryo

全国保険医団体連合会(保団連)の雑誌「月刊保団連」1月号の臨時増刊「医療も命も削られる」はA5判30ページの小冊子ですが、現在の医療現場のおかれた状況をわかりやすく解説してありとても参考になります。お近くの病院や診療所の待合室に置かれているかも知れませんので、是非一度御覧下さい。また保団連(TEL 03-3375-5121 FAX 03-3375-1885)やお住まいの都道府県の保険医協会で一冊150円で購入できると思います。(と書いたのですが、あめんほてっぷさんから保団連のHPにPDFがあることを教えて頂きました。手っ取り早く見てみたい方はそちらのほうをどうぞ)

全部で7章からなりそれぞれの章題は下記の通りです。


  1. なぜ起こった? 医師不足

  2. 保険診療と診療報酬

  3. 医療を削る

  4. 低い医療費、高い患者負担のからくりは?

  5. 医療を削る背景には

  6. 財政赤字が大変?(プライマリーバランス論のウソ)

  7. 患者負担ゼロなど医療の給付を拡大するにはいくらかかる?


図版や内容を引用してもよいとの了解を得ましたので、これから何回かにわたって御紹介しようと思います。できるだけ分かりやすくかつ簡潔に書くことを心がけるつもりです。
まず手始めに表紙裏の前置きをそのまま引用します。
「産科施設が激減!」
小児科も、外科も、救急も…

 医師不足による医療機関の廃院や診療科の閉鎖が深刻な社会問題になっています。「産科が相次いで閉院。市外まで行かなければ出産できない」「50キロ離れた産科医院に救急車で移動中、車中で出産した」。02年に全国6000カ所とされていた産科医院ですが、実際に分娩を行っているのは3000カ所になっていることが05年の学会調査で明らかになっています。その後も「産科医師が足りず、安全性が保てない」「採算がとれない」などと、分娩を取りやめる産科医療機関が続出しています。産科にとどまらず、小児科、外科、救急を受け入れる病院などもどんどん地域から姿を消しています。
 日本の医療制度は大きな歪みを持っています。政府が長年医療にお金をかけなかったため、日本の医療費は、先進7カ国で最低水準になっています。その一方、患者負担は先進国一高くなっています。
 私たちはこうした、医療にお金をかけない政府の姿勢を「低医療費政策」と呼んできました。
 この冊子では、この低医療費政策がもたらした様々な矛盾や問題点を見ながら、日本の医療について考えていきたいと思います。


Iryo1_1

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