
年末になるまで暖冬ぎみだったせいか、私の住む県ではいまだインフルエンザは流行と言うほどの広がりは見せていません。先週ようやくA型の方が2人出ましたが、同じ週にワクチンを打った方もこの分なら抗体ができあがるまでまず大丈夫でしょう。
そのインフルエンザワクチンの接種料ですが、私の診療所ではワクチンの個別接種が始まった頃からずっと大人も子供も3,150円です。大分前のことでもう記憶が定かではありませんが、確か市の医師会に問い合わせて大体どこもこのくらいの値段でしていると聞いて決めたように思います。
以来十数年、ずっとこの価格できました。ところが最近ある患者さんから「病院によってインフルエンザワクチンの値段が違うけど上等なワクチンは高いのか」と聞かれました。あわてて調べてみると2000円台でしているところが結構あり、「学割」あり「家族割り」ありとまるで携帯電話の料金設定のような状態を呈していました。さらには別な患者さんから、東京近郊の県に住んでいる子供さんのかかっている病院ではそこに通院している人は3000円、そうでない人は5000円という料金体系になっているそうだと聞かされ本当に驚きました。
日頃薬の原価とか、薬価差とか利益についてはあまり深く考えない(というよりどうしてもそっちの方を考えることを卑しいと考えてしまう)私ですが、少し考えてみざるを得ませんでした。まず薬の卸さんの請求書を見るとインフルエンザHAワクチン1ml入り(つまり大人二人分)が1700円弱の単価でした。一人分が800円少し!、ここで何たる暴利を貪っているのかと思われる方もいるかもしれません。でもワクチンは接種を希望される方に手渡しして、自宅で好きなように使用していただく物ではありません。注射しても大丈夫かどうか十分な問診と診察をした上で接種することになっています。重篤な副作用が出現するのは接種後30分以内が殆どですのでこの間は院内で様子を見ます。健康診断の場合もそうですが、自由診療(健康保険を使えない医療行為のこと)の場合保険診療の点数(すべての医療行為に対して点数がついています)を使って請求額を算出しています。他に医療行為の金銭的価値を計る尺度を持ち合わせていないからです。するとインフルエンザワクチン接種の場合先ほどの800円に、診察料(初診料)の270点と皮内・皮下及び筋肉内注射手技料の18点を加算(1点は10円)すると合計で3700円くらいになりますから妥当なところでしょうか。
一方別な見方をすると、ワクチンそのものは800円そこそこな訳ですからそれだけを考えると1000円の接種料でも元は取れると言うことでしょう。いろいろな料金体系を工夫している医療機関を非難するつもりは毛頭ありません。接種を受ける方にとっては安いに越したことはないでしょう。ただ、「すべての人を等しくインフルエンザの脅威から守りたい」という医療の原点みたいな気持ちが失われ、「当院なら御予約いただければ500円の割引サービスをただいま実施中です。」なんていう市場原理丸出しの競争になったら悲しいなと思った次第です。
念のために言っておきますが、私自身は皆が納得して決められるのであれば1000円の接種料でもかまわないと思っています。その方がより多くの人々が接種を希望するでしょう(でも談合と言われるのかな?)。医療に競争はなじまないと思うのですが…。
最近のコメント